人生は、楽しいストーリーにしたもの勝ちだ

レベル1から始める人生劇場、行きまーす!

掌の空(15分、お題『穏やかな反逆』)

抜けるような、透けるような、果てしなくのしかかる青空の元に僕は立っている。
『立って』いるのか『刺さって』いるのか、ここは上なのか下なのか、疑いのまなざしを向けたくもなるけれど、やっぱり空が上で地面は下だ。僕にとっては。

上は手が届かない。下はいつでも触れる。上と下に違いがあるのならそんなところだろう。手が届かないものへの憧れが、飛行機を、空を飛ぶモノの誕生につながった。

繋がったけれど
誰も『空に触った』とは言わない。『空を征服した』とか『空を飛んだ』とかそんな言い方ばっかりだ。

地面を飛んだとも言わない。地面は触るもの、踏むもの、走るもの――ああ、空を走るという言葉はあるかな。

僕 は空に触りたい。いや、触るじゃ足りない。あの青空を手の中に掬い取りたい。青空をこの掌の中に住まわせたいんだ。掌のしわの一本一本に空の気配を染み込 ませたいんだ。生身で空を飛べたらいいなとも思うけれど、ただ飛べるだけでは足りないんだ。この掌に青空を掴みたいんだ。

だから空に手を伸ばす。手は短すぎて青には届かず、握っても実感はなにもなく。
捨てられていた水鉄砲に水をつめて空に打ち出す。嗤うように落ちてくる。


落ちてくる?
ああ、違うな。
帰ってくるんだこの水は。

空に触れて、僕の手では届かない高さの空の青を吸って、帰ってくるんだ。
掌で受け止めようとしたら、ものの見事に顔にかかった。冷たくはない。ぬるくもない。ただ『水』といわれて納得をする、5月の水道水のぬくもり。

思えば思えば、遠い青の空は掴めないのではなく、掴んだものが青くないだけの話。深海の水を掌で救えば透明だ。この水鉄砲の水と色あいに違いはない。
僕が憧れている、この手につかみたいものは空ではなく『空の青』。それは掴んでいるからこそつかめないもの。

ああそうだと、宇宙から見た地球を思い出す。
あそこから見れば、僕は空の青の中にいる。掴もうとしなくたって、離れたところから見ればとっくに掴んでいる。

僕が欲しい空の青。この手にとどめておきたい空の青。
僕の掌が小さすぎて、青くならない空。
水鉄砲を植え込みに隠そうとして、もう一度引き金を引いてみる。
残った水が掌に。ぬるい5月のぬくもりと、今日の空を吸い込んで、色のない青が僕の手にしみこんでいく。