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(メディアグランプリ投稿作品)任天堂の最高の裏切り

こちらの記事は天狼院書店『メディアグランプリ』に投稿したものです。

……なのですが、時間オーバー+ポケモンGOネタは今回は見送りということで、ここでのみの公開となりました(笑)

そういうこともあるよね!

 

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任天堂の最高の裏切り

 

なんで! なんで! なんで!?

苦しんでる動物たちに寄り添って、彼らの窮状を訴えて、1人でも多くの人に彼らへの愛をもってもらおう、そうやって悲しい思いをする動物を減らそうって、窮状を訴え続けてきたのに!

なぜ! どうして! どうして!?

あんなに時間かけて、悲しみに暮れた話聞いて、親身になって診たのに! このままだと社会生活が送れない、外に出たくても出られないと泣くかわいそうな患者さんのために、あらゆる薬を処方して、あらゆる心理療法を試したのに!

なんでさ! なんでさ! なんでさ!!

あんなに一生懸命カウンセリングしたじゃない! 体脂肪率やら筋肉量やら測って、理想のボディに近づけるように、無理なくダイエットできるトレーニングメニュー考えて、毎日状況聞いたりして、手厚く手厚くサポートしてあげたのに!

なんで!?

どうして!?

なんで、なんで、なんで、

私たちが人生を賭けて取り組んできた難題を、ポッと出のあんたが、何も知らないあんたが、いとも簡単に解決しちゃうのさ!

トレーニングウェアに白衣を羽織った男、ウィロー博士と名乗るその男は、迫り来る悪意の声に、怒りの声に耳を澄ませる。しっぽが尖った黄色いネズミは、彼の腕の中で寂しそうに身体を丸めている。

ウィロー博士は、ゆっくりと口を開く。
「彼らはただ、楽しんでいるだけですよ」
 その言葉に、さらに荒ぶる怨嗟の声。

楽しいだけで解決してたまるか、面白いだけで救われてたまるか、そんなことが通用するなら、私たちは、なんのためにこんなに苦しんできたんだ! そんな根拠のない方法に人を巻き込むなんて無責任だ!

 ウィロー博士は彼らに視線を向ける。おびえる子猫を見つめるような、優しい目。しかし、語る一言は、怨嗟の波を大砲のように打ち抜く。

「あなたたちは、彼らを救いたかったのですか?それとも、苦しむ自分たちを、認めてほしかっただけなのですか?」

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なーんて声が、聞こえそうな今日この頃。

ポケモンGOは、ある意味『えげつない』ほどに現実を変えた。
動物保護シェルターの職員が『かわいそうな動物を助けて!』と叫んでも誰も振り向かなかったのに、『ポケモン探しのついでに犬の散歩しませんか?』と言っただけで、シェルターの犬がもらわれていった。
『外に出ないとあなたが大変なのよ!』『あなたのためなのよ!』って言っても動かなかった引きこもりが、ピカチュウを探したくて外に出ていった。
『ダイエットに運動が一番!』って叫んでも運動しなかった人が『レアポケモンは歩いて探してね』って言われただけで何キロも歩き始めた。そんな事実が、次々とあらわになっていった。

 

社会現象で片づけるにはあまりにもセンセーショナルなポケモンGO旋風。たかがゲーム、されどゲームが、意外な方法で難題を解決していった。

 

だからこそ、みんな思い知ってしまった。
本当は目をそらしたかった事実を突きつけられてしまった。

自分の所に人が来なかったのは、言うことを聞いてもらえなかったのは、日々のトレーニングができなかったのは、それが間違っていたからでも、大切さが伝わっていなかったからでも、能力がないからでもない。

ただ、おもしろくなかったからなんだ、と。
日本にはびこる『努力、根性、生真面目さ』は、『おもしろさ』に勝てないんだと。

『努力と根性と苦しみの中で生きていけ』という、日本を覆う常識は、ポケモンGOによって風穴を開けられた。カシの樹の前で夢中になって目をキラキラさせる、純粋で消えない発見の喜びが、あっという間に世界を変えてしまった。

ポケモンGOの本質は昆虫採集だ。スマホをかざすとピカチュウというカブトムシが見つかるから捕まえる、たったそれだけのこと。そのシンプルな面白さが、どんな複雑な理論よりも仕込みよりもデータよりも直接的に、人々を『行動』に駆り立てた。

ポケモンGOはセンセーショナルに、そして明確に証明してみせた。どんな薬よりも、どんなカウンセリングよりも、どんな理論よりも、『おもしろい』が人を動かすと。
私たちが心のどこかで信じている『人生は耐え忍び苦しむことだ』『苦しんで努力すればいつか報われる』という刷り込みが間違っているかもしれないと。

 

楽しく生きるのが一番!人を動かしたければ楽しませるのが一番!そんな当然のことが、改めて日の元に晒された。

 

それで困ったのはどこか?

皮肉にも、ポケモンを擁する任天堂発祥の地、日本だ。

 

日本でまことしやかにささやかれる神話、いや都市伝説である『苦労神話』。苦労こそが最上の価値であるという思い込み、いや、『そうであってほしい』という願い。

ポケモンGOは、その願いを鮮やかに裏切ってしまった。

いうならば北風と太陽。日ノ本と書くのに北風至上主義なこの国に訪れた、ポケモンという日本製の太陽。

 

まさに『最高の裏切り』。喝采ものだよなぁ。